遺言書の種類と法定相続人

1. 相続と遺言書、法定相続の基本

相続は、誰にでも関わる可能性のある重要なライフイベントです。財産を遺す側にとっても、受け継ぐ側にとっても、その基本的なルールを理解しておくことは、円満な財産承継のために不可欠です。

日本の相続制度では、亡くなった方(被相続人)の意思を反映させるための重要な法的手段として「遺言書」があります 。遺言書を作成することで、法律が定める画一的な相続ルール(法定相続)とは異なる形で、財産の分配などを指定できます。  

一方で、遺言書がない場合や、遺言書で全ての財産について触れられていない場合には、民法が定めるルールに従って相続が進められます。この法律上のルールで定められた相続人を「法定相続人」と呼びます 。  

本稿では、相続の基本となる「遺言書の種類」と「法定相続人」について、それぞれの特徴やルールを解説します。

2. 遺言書の種類と特徴

遺言書にはいくつかの種類があり、それぞれ作成方法や効力、メリット・デメリットが異なります。主な種類は以下の通りです。

①自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)

遺言者が、遺言書の全文、日付、氏名を自筆で書き、押印して作成する遺言書です 。  

  • メリット:
    • 費用がかからず、いつでも手軽に作成・修正できます 。  
    • 遺言の内容を秘密にしておくことができます 。  
  • デメリット:
    • 法律で定められた形式(全文自筆、日付、氏名、押印など)を欠くと無効になるリスクがあります 。  
    • 自宅などで保管する場合、紛失、隠匿、改ざんのリスクがあります 。  
    • 原則として、相続開始後に家庭裁判所での「検認」手続きが必要です 。  

②公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)

公証役場で、公証人が遺言者の意思に基づいて作成し、証人2名以上の立会いのもとで作成される遺言書です 。  

  • メリット:
    • 公証人が関与するため、形式不備で無効になる可能性が極めて低いです 。  
    • 原本が公証役場で保管されるため、紛失、偽造、改ざんのリスクがありません 。  
    • 家庭裁判所での検認手続きが不要です 。  
  • デメリット:
    • 作成に費用(財産額に応じた手数料など)がかかります 。  
    • 証人2名以上の立会いが必要なため、遺言の内容を完全に秘密にすることはできません 。  
    • 必要書類の準備や公証人との打ち合わせなど、作成に手間と時間がかかります 。  

③秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)

遺言者が作成・署名・押印した遺言書を封筒に入れ、同じ印鑑で封印し、公証人と証人2名以上の前で自分の遺言書であることを申述して、その封筒に公証人、遺言者、証人が署名・押印する方式の遺言書です 。  

  • メリット:
    • 遺言の内容を公証人や証人にも秘密にしたまま、遺言書の存在を公的に証明できます 。  
    • 自筆である必要はなく、パソコンでの作成や代筆も可能です(署名は自筆)。  
  • デメリット:
    • 作成に費用(定額11,000円)と証人2名以上が必要です 。  
    • 遺言書の内容自体は公証人のチェックを受けないため、内容の不備により無効になるリスクがあります。
    • 家庭裁判所での検認手続きが必要です。

④自筆証書遺言保管制度

自筆証書遺言のデメリット(紛失・改ざんリスク、検認手続きの必要性)を軽減するために創設された制度です。遺言者が作成した自筆証書遺言を、法務局(遺言書保管所)に預けて保管してもらうことができます 。  

  • メリット:
    • 法務局で原本と画像データが長期間保管されるため、紛失、破棄、隠匿、改ざんのリスクが大幅に減少します 。  
    • 申請時に、形式的な要件(日付、署名、押印など)を遺言書保管官がチェックしてくれるため、方式不備による無効リスクを低減できます 。  
    • 家庭裁判所での検認手続きが不要になります 。  
    • 遺言者の死亡後、事前に指定した人や、相続人の一人が遺言書の閲覧等を行った際に、他の相続人等へ遺言書が保管されている旨が通知される仕組みがあります 。  
    • 費用が比較的安価です。  
  • 注意点:
    • 法務局は遺言の内容についての相談には応じられず、内容の有効性を保証するものではありません 。  
    • 保管申請手続きは遺言者本人が法務局に出向いて行う必要があります 。  
    • 遺言書の内容を変更・撤回したい場合は、一度保管申請を撤回し、再度申請し直す必要があります 。  

3. 法律が定める相続の権利者

遺言書がない場合、または遺言書で指定されていない財産については、民法が定める「法定相続人」が遺産を相続します 。  

①法定相続人の範囲と順位

誰が法定相続人になるかは、被相続人との関係性によって決まっており、優先順位があります 。  

  1. 配偶者: 常に法定相続人となります 。法律上の婚姻関係にあることが必要で、内縁関係や離婚した元配偶者は含まれません 。  
  2. 血族相続人: 以下の順位に従い、配偶者と共に、または配偶者がいない場合は単独で相続人となります。
    • 第1順位:子およびその代襲相続人(直系卑属): 被相続人の子が最優先です。実子、養子、認知された子を含みます 。子が先に亡くなっている場合は、その子(孫)が代襲相続します。孫も亡くなっている場合はひ孫へと再代襲します 。  
    • 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など): 第1順位の相続人がいない場合に相続人となります。父母が健在なら父母が、父母が亡くなっていれば祖父母が相続します(世代が近い方が優先)。  
    • 第3順位:兄弟姉妹およびその代襲相続人: 第1順位、第2順位の相続人がいない場合に相続人となります。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、その子(甥・姪)が代襲相続します。甥・姪の子への再代襲はありません 。  

②代襲相続(だいしゅうそうぞく)

本来相続人となるはずの子や兄弟姉妹が、被相続人より先に亡くなっていた場合に、その相続人の子が代わりに相続することを代襲相続といいます 。子の代襲相続は下の世代(孫、ひ孫)へ続きますが、兄弟姉妹の代襲相続は甥・姪の一代限りです 。  

③相続放棄の影響

法定相続人が家庭裁判所で相続放棄の手続きをすると、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われます 。ただし、相続税の基礎控除額や生命保険金の非課税枠を計算する際の「法定相続人の数」には、相続放棄をした人も含めて数えます 。  

4.法律が定める相続割合の目安

民法は、法定相続人の組み合わせに応じて、遺産を分ける際の基本的な割合(法定相続分)も定めています 。これはあくまで目安であり、遺言書があればそちらが優先されますし、遺言書がなくても相続人全員の合意(遺産分割協議)があれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分けることも可能です 。  

主な法定相続分の割合は以下の通りです。

  • 配偶者と子: 配偶者 1/2、 子(全員で) 1/2  
  • 配偶者と直系尊属(父母など): 配偶者 2/3、 直系尊属(全員で) 1/3  
  • 配偶者と兄弟姉妹: 配偶者 3/4、 兄弟姉妹(全員で) 1/4  
  • 配偶者のみ、子のみ、直系尊属のみ、兄弟姉妹のみ: そのグループが遺産の全て(100%)を相続  

同じ順位の相続人が複数いる場合(例:子が3人)、そのグループ全体の法定相続分を人数で均等に分けます 。  

5. 適切な遺言書の選択と相続の準備

遺言書にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どの種類が最適かは個々の状況によって異なります。自筆証書遺言の手軽さ、公正証書遺言の確実性、秘密証書遺言の秘匿性、そして自筆証書遺言保管制度による安全性の向上など、それぞれの特徴を理解した上で選択することが重要です。

また、遺言書がない場合に適用される法定相続人の範囲や順位、法定相続分についても基本的な知識を持っておくことは、相続への備えとして役立ちます。

遺言書の作成や相続手続きは複雑な場合も多く、法的な要件を満たさないと意図した効果が得られない可能性もあります。不安な点や不明な点があれば、弁護士、司法書士、行政書士、税理士など、相談内容に応じた専門家に相談することを検討しましょう 。

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