墨田区民泊の「週末限定」ルールで不動産市場に与える影響

墨田区で起きた「不動産価値の激変」

墨田区の不動産オーナーにとって、民泊のルールが大きく変わったことは、ご自身の物件の価値を根っこから揺るがす大事件です。

墨田区はスカイツリーや浅草に近いことから、一時は民泊の数が全国で4番目に多い地域でした 。以前は、民泊にすれば普通の賃貸の約3倍の売上になることも珍しくなく、多くの投資家が参入してきました。

しかし、観光客が増えすぎた結果、近隣住民から「うるさい」「ゴミがひどい」といった苦情が殺到 。この問題を解決するため、墨田区は「もう平日には民泊営業をさせない」という厳しいルールを作ることにしました。   

この新しいルールが、墨田区の不動産市場を「高値で売れる物件」と「価値が下がる物件」の二つにハッキリと分けてしまったのです。

1. 民泊 営業稼働日数が半分近くに減る衝撃

墨田区が定めた新しい条例(2026年4月施行予定)の最も重要な点は、民泊の営業を「金曜日の正午から日曜日の正午まで」に限定することです 。   

これまで、民泊は国が決めた法律(民泊新法)で「年間最大180日」営業できました。しかし、この新しい墨田区のルールが始まると、週末だけしか営業できなくなり、稼働日数は年間約104日に激減します。

これは、年間の営業機会が42%も減るということです。

収入が減る=物件の価値が下がる

不動産の投資家は、その物件が将来どれだけお金を稼いでくれるか(収益)で価格を決めます。これを「収益還元法」といいます 。

  • 稼げる日数が半分近くに減る。
  • 管理費や税金などの「固定費」は変わらない。

結果として、物件が生み出す利益(純利益)は大幅に減り、投資家から見た物件の魅力は下がります。週末しか営業できない物件の価格は、30%〜50%も下がる可能性があると見ておくべきです。

2. 新規登録物件と既存登録物件

墨田区の不動産市場がなぜ二極化してしまったかというと、この新しいルールに「ただし、例外があります」という特別な決まりがついているからです 。   

新しいルール(週末限定)が適用されない「例外」の物件は、以下のとおりです。

2-1. 既存民泊物件

【対象】 2026年4月の施行日 より前に、すでに墨田区に民泊として登録・承認されている物件 。   

【価値の理由】 あなたの物件は、規制によって新規参入がシャットアウトされた市場の中で、年間180日営業できる希少な物件です。

  • 売却価格の予想: 週末限定物件と比べて、1.5倍から2倍以上の価格で売却できる可能性があります。

2-2. 新規民泊物件

【対象】 2026年4月の施行日 までに登録・承認されていない物件。   

【価値の理由】 週末しか営業できないため、投資物件としての魅力は大きく失われます。高い収益を目指す投資家は手を引くでしょう。物件は、普通の「長期賃貸マンション」に近い基準で価格を評価されることになります。

売却ターゲットは、民泊投資家ではなく、自分で住みたい人(実需層)や、普通の賃貸経営をしたい人へと切り替える必要が出てきます。

3. オーナーが今すぐ取るべき「出口戦略」

2026年4月 という期限が迫る中、あなたの物件のステータスに合わせて、最適な売却戦略を立てましょう。   

既存民泊許可を持った物件の場合

目標: プレミアム価格を最大限に引き出す。

  1. ターゲットを絞る: 一般の人ではなく、高額なプレミアムを払う専門の投資会社や、大規模な資産家に狙いを定めて売りに出します。
  2. 売却のベストタイミング: 規制が始まる直前が最も市場が熱狂します。2025年後半から2026年初頭にかけて、売却を仕掛けるのが理想的です。
  3. 証拠を出す: 売却の際は、「なぜこんなに高いのか」を説明するために、過去の実際の収益データや稼働率を詳細に示し、プレミアムの正当性を証明する必要があります。

新規民泊許可物件の場合

目標: 価値の暴落を防ぎ、流動性を確保する。

未登録物件のオーナーは、以下の3つの選択肢から、すぐにどれを選ぶか決断する必要があります。

【規制回避】旅館業(簡易宿所)への転換

週末限定の民泊ルール が適用されない「旅館業許可(簡易宿所)」へ物件を転換すれば、年間365日営業可能になり、物件価値の暴落を防げます。   

ただし、難易度は高いです。

  • 費用: 許可取得のための申請費用やリフォーム費用(消防設備など)で、小規模な物件でも50万円〜155万円ほどの初期費用がかかる場合があります 。
  • 手間: 特に3階建ての建物では、安全対策として新たに「竪穴区画」(階段部分を区切る防火的な設備)が必要になるなど、建築上の大きな工事が必要になるケースがあります 。
【現実路線】普通の賃貸物件に戻して売却

民泊運用を諦め、普通の賃貸物件として満室にしてから売却する方法です。

  • 転換費用: 民泊をやめるための廃業手続き、賃貸に戻すための用途変更や消防設備の変更などで、一般的に80万円から150万円ほどかかる場合があります 。
  • 価格修正: 賃貸物件として安定した収益が得られる価格(賃貸利回り)に評価基準が切り替わるため、民泊として期待していた頃よりも、価格が下がってしまうのは避けられません。しかし、この現実を受け入れてすぐに売却することで、さらなる価格下落のリスクを回避できます。

専門的な知識とスピードが鍵

墨田区の条例改訂は、不動産を「特別な許可付きの資産」と「そうでない資産」に分けました。不動産を売却するオーナーにとって、成功の鍵は、「自分の物件が規制の壁のどちら側にあるか」を正確に把握し、2026年4月 の施行に向けて、戦略的な行動を素早く実行できるかにかかっています。   

高値で売るにしても、損をせずに売るにしても、法的な知識と、今の市場で「いくらなら売れるか」を正しく計算できる専門家の力は不可欠です。