借地権者が契約更新をしない場合の建物買取請求権

借地借家法第13条は、借地契約の期間が満了し、契約が更新されない場合に、借地権者が地主に対して建物を時価で買い取るよう請求できる「建物買取請求権」を定めています 。この権利は、借地上の建物への投下資本を回収する機会を借地権者に与え、建物を取り壊すことによる国民経済上の損失を防ぐことを目的としています 。  

建物買取請求権を行使できるケース

建物買取請求権は、借地契約の期間が満了し、契約の更新がなかった場合に発生します 。具体的には、主に以下の状況が考えられます。  

  • 地主が正当事由をもって更新を拒絶した場合 地主が契約更新を望まず、その拒絶に「正当事由」が認められる場合、借地権者はこの権利を行使できます 。これは、建物買取請求権が想定される典型的なケースです 。  
  • 借地権者が自ら更新請求をしなかった場合 借地権者自身が契約の更新を請求せず、契約を終了させることを選択した場合でも、建物買取請求権は行使可能です 。過去の裁判例では、地主が「借地権者が更新を求めないのだから、建物買取請求権も放棄したとみなすべきだ」と主張したケースがありましたが、裁判所はこの主張を退け、借地権者による建物買取請求を認めています 。  

ただし、解釈上、借地権者が更新を希望しない一方で、地主側が契約の更新を望んでいる場合には、建物買取請求権は認められないと考えられています 。  

建物買取請求権を行使できない主なケース

一方で、以下のような状況では建物買取請求権の行使は認められません。

  • 債務不履行による契約解除 地代の滞納や無断増改築など、借地権者の契約違反(債務不履行)を理由に地主が契約を解除した場合、借地権者は建物買取請求権を行使することはできません 。  
  • 合意解約 契約期間の途中で、地主と借地権者が双方の合意によって契約を終了させた場合、原則として建物買取請求権は発生しません 。判例では、このような合意解約には、建物買取請求権の放棄が前提となっていると解釈されています 。  
  • 一時使用目的の借地契約 当初から一時的な使用を目的とした借地契約には、建物買取請求権の規定は適用されません 。  

権利の性質と効力

建物買取請求権は、法的に非常に強力な権利として位置づけられています。

  • 形成権 この権利は「形成権」と呼ばれ、借地権者が行使の意思表示をした時点で、地主の承諾の有無にかかわらず、建物に関する売買契約が時価で成立します 。地主側に拒否権はありません 。  
  • 強行規定 借地借家法第16条により、建物買取請求権を排除するような特約(例えば「契約終了時に借地権者は建物買取請求権を放棄する」といった契約条項)は、借地権者に不利なものとして無効とされます 。  

まとめ

借地権者の建物買取請求権は、地主の更新拒絶時だけでなく、借地権者が自ら更新を希望しない場合にも行使できる可能性があります。これは、借地権者を保護するための強力な権利です。しかし、債務不履行や合意解約の場合には適用されないなど、その行使には明確な要件があります。

実際の行使にあたっては、買取価格(時価)の算定や所有権移転登記の手続きなど、交渉が難航する点も多いため、専門家である弁護士への相談が推奨されます