遺言書の検認

相続が発生した際、故人が遺言書を遺している場合があります。遺言書にはいくつかの種類があり、その種類や保管状況によっては「検認」という家庭裁判所での手続きが必要になることがあります。この検認手続きは、相続を円滑に進める上で非常に重要ですが、その内容や目的、具体的な進め方について誤解されている点も少なくありません。

本稿では、相続法を専門とする立場から、遺言書の検認について、その法的な定義と目的、検認が必要となるケースと不要となるケース、具体的な手続きの流れ(申立て場所、必要書類、期間、費用)、家庭裁判所の役割と検認の限界、そして検認を怠った場合のリスクや、相続人・遺言執行者が注意すべき点、よくある質問やトラブル事例まで、網羅的に解説します。

1. 遺言書の検認とは?

遺言書検認の法的定義と目的

遺言書の「検認」(けんにん)とは、遺言者(故人)の死亡後、特定の種類の遺言書について、家庭裁判所が行う手続きです 。主な対象は、法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言や秘密証書遺言です。この手続きでは、裁判所が遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認日時点での遺言書の内容(物理的な状態)を客観的に確認し、その結果を記録します 。  

検認の主な目的は、以下の二点に集約されます。

  1. 遺言書の偽造・変造の防止: 遺言書が発見されたそのままの状態を家庭裁判所が公式に確認・記録することで、その後の不正な書き換えや破棄を防ぎます 。特に、故人が自宅で保管していたり、相続人の一人が預かっていたりする遺言書は、第三者の目が届きにくいため、この保全措置が重要となります 。  
  2. 相続人への遺言書の存在と内容の告知: 検認手続きを通じて、全ての法定相続人に対して、遺言書が存在することとその概要が公式に知らされます 。相続人の中には遺言書の存在を知らない人もいる可能性があり 、検認は相続手続きの透明性を確保する役割も担います。家庭裁判所は、検認を行う日(検認期日)を全ての相続人に通知します 。  

この手続きの根拠は民法第1004条に定められています 。同条では、遺言書の保管者(遺言書を預かっている人)または遺言書を発見した相続人は、相続の開始を知った後、「遅滞なく」(ちたいなく)家庭裁判所に遺言書を提出して検認を請求しなければならないと規定されています 。  

検認制度が持つ「遺言書の現状を保全する」という目的と、「全相続人にその存在と内容を知らせる」という目的は、法が遺言者の最終意思の尊重と、相続人間の手続き的な公平性の確保とのバランスを図ろうとしていることを示唆しています。遺言書の物理的な状態を確定することで遺言者の意思を不正から守り 、同時に全相続人に情報を開示することで 、各相続人が自身の権利(例えば遺留分 )を認識し、適切な行動をとるための基盤を提供しているのです。  

一方で、民法が定める「遅滞なく」という要件は、具体的な期限が明示されていないため、実務上、どの程度の期間が許容されるのかが一義的に明らかではありません 。相続放棄(3ヶ月以内)のような明確な期限がないため、遺言書を発見した相続人や保管者にとっては、どれだけ迅速に行動すべきか判断に迷う可能性があります。一般的には、相続開始を知ってから1ヶ月以内が一つの目安とされることもありますが 、これは法的な強制力を持つものではありません。この曖昧さは、いたずらに手続きを遅らせるべきではないという法の要請と、相続人の確定や必要書類の収集といった準備期間の必要性との間で、合理的な範囲での迅速な対応を促すものと解釈されます。  

2. 検認が必要な遺言書・不要な遺言書

全ての遺言書が検認を必要とするわけではありません。遺言書の種類と、それがどのように保管されていたかによって、検認の要否が決まります。

検認が必要となる遺言書の種類

以下の種類の遺言書は、原則として家庭裁判所での検認が必要です。

  • 自筆証書遺言(法務局保管制度を利用していないもの): 遺言者が全文(財産目録を除く)、日付、氏名を自書し、押印した遺言書です 。この形式の遺言書が、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用せずに、自宅や貸金庫などで保管されていた場合、または相続人が保管していた場合は、検認が必要となります 。封筒に入れられていない、メモのような形式であっても、法的な要件(自書、日付、署名、押印)を満たしていれば遺言書として扱われ、検認の対象となります 。  
  • 秘密証書遺言: 遺言者が作成(代筆も可)し、署名押印した遺言書を封筒に入れ、遺言書に用いた印章と同じ印章で封印します。その後、公証人1人と証人2人以上の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨と氏名・住所を申述します。公証人がその封紙に提出日と申述内容を記載し、遺言者、証人、公証人が署名押印する方式の遺言です 。この遺言書は、作成過程で公証人が関与するものの、遺言の内容自体は公証人にも秘密にされ、原本も通常は遺言者が持ち帰って保管するため 、保管中に改ざんされたり、遺言書自体に法的な不備があったりするリスクが残ります。そのため、家庭裁判所による検認が必ず必要とされます。  

検認が不要となる遺言書の種類

以下の種類の遺言書は、家庭裁判所での検認は不要です。

  • 公正証書遺言: 公証人および証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の内容を口授し、それに基づいて公証人が作成する遺言書です 。作成過程で法律の専門家である公証人が関与し、内容の確認や法的な助言も行われ、原本は公証役場に厳重に保管されるため、偽造、変造、紛失のリスクが極めて低いとされています 。したがって、検認手続きは不要です。相続人は、公証役場で発行される遺言書の正本または謄本を用いて相続手続きを進めることができます 。  
  • 法務局保管制度を利用した自筆証書遺言: 2020年7月10日に施行された「法務局における遺言書保管等に関する法律」に基づき、遺言者が自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預ける制度です 。この制度を利用する場合、遺言書は法務局によって形式的な要件(自書、日付、署名、押印など)がチェックされ(ただし内容の有効性までは保証されません )、原本と画像データが長期間、安全に保管されます 。このように、偽造・変造のリスクが低く、保管の確実性が高いため、この制度で保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認は不要とされています 。相続人は、遺言者の死亡後、法務局で「遺言書情報証明書」の交付を受けることで、相続手続きを進めることができます 。  

遺言書の種類と検認要否の比較

遺言書の種類保管方法検認の要否
自筆証書遺言自宅等で本人・相続人等必要
自筆証書遺言法務局保管制度不要
公正証書遺言公証役場不要
秘密証書遺言自宅等で本人・相続人等必要

この比較表は、発見された遺言書について検認が必要かどうかを判断する際の、最初のステップとして役立ちます。

法務局の遺言書保管制度の創設は、日本の遺言制度における重要な変化と言えます。従来、自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、紛失・未発見・偽変造のリスクや、死後の検認手続きの負担がデメリットとされてきました 。一方で、公正証書遺言はこれらのリスクを回避できますが、費用がかかり、作成に手間や時間、証人が必要で、内容が公証人や証人に知られるという側面もあります 。遺言書保管制度は、自筆証書遺言の利便性を維持しつつ、保管の安全性と検認不要という公正証書遺言に近いメリットを提供することで 、両者の中間に位置する選択肢を創設しました。これは、より多くの人が安心して遺言を作成し、相続を円滑に進められるように促すための、立法的な工夫であると考えられます。  

秘密証書遺言について、作成過程の一部に公証人が関与するにも関わらず、依然として検認が必要である点は注目に値します。これは、検認が必要とされる根本的な理由が、単に公証人の関与の有無ではなく、「遺言内容の公的な確認と、その後の安全な保管が保証されていないこと」にあることを示しています。秘密証書遺言では、公証人は封紙に記載された申述内容を確認するのみで、封入された遺言書の内容や形式の適法性までは確認しません 。また、遺言書は通常、遺言者が持ち帰るため 、その後の保管中に紛失したり、改ざんされたり(封印が不完全な場合など)、あるいは遺言書自体に不備があるといったリスクが残ります。したがって、家庭裁判所による内容の保全と相続人への告知という検認の機能が、依然として必要と判断されているのです 。  

3. 遺言書検認の手続き:具体的な流れと注意点

遺言書の検認が必要であると判断された場合、以下の手順で手続きを進めます。

申立て場所

検認の申立ては、遺言者(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います 。申立人や他の相続人の居住地は関係ありません 。例えば、遺言者が亡くなった時の住所が東京都内であれば東京家庭裁判所、相続人が大阪に住んでいても、申立ては東京家庭裁判所に行うことになります。管轄の家庭裁判所は、裁判所のウェブサイトで確認できます 。  

申立てに必要な書類と戸籍謄本の範囲

検認を申し立てる際には、主に以下の書類が必要となります。

  • 申立書: 家庭裁判所指定の様式があり、裁判所の窓口やウェブサイトから入手できます 。  
  • 遺言者の戸籍謄本等: 遺言者の出生から死亡までの連続した全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)が必要です 。これは、法定相続人を正確に確定するために不可欠です。  
  • 相続人全員の戸籍謄本: 確定した法定相続人全員の現在の戸籍謄本(抄本でも可の場合あり)が必要です 。遺言者の死亡日以降に発行されたものを求められることもあります 。  
  • 遺言書: 遺言書の原本。ただし、申立て時にはコピーの提出を求められ(封印されていない場合) 、原本は検認期日当日に持参するのが一般的です 。封印のある遺言書は、絶対に開封せずにそのまま提出(期日持参)しなければなりません 。  
  • 相続関係に応じた追加の戸籍謄本: 相続人に、既に亡くなっている子(とその代襲相続人である孫など)、親や祖父母(直系尊属)、兄弟姉妹(とその代襲相続人である甥姪など)が含まれる場合は、さらに広範囲の戸籍謄本が必要になります 。例えば、兄弟姉妹が相続人となる場合は、亡くなった親の出生から死亡までの戸籍や、亡くなった兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍なども必要となり、収集には相当な手間と時間がかかることがあります 。  
  • (代替可能な場合)法定相続情報一覧図の写し: 法務局が発行する「法定相続情報一覧図」の写しがあれば、上記の広範な戸籍謄本の提出を省略できる場合があります 。  
  • (原本還付を希望する場合)上申書と戸籍謄本等のコピー: 提出した戸籍謄本等は後の相続手続きでも必要になるため、原本の返却(還付)を求める上申書と、提出する戸籍謄本等全てのコピーを併せて提出することが推奨されます 。  

戸籍謄本の収集は、検認手続きにおける最初の関門となることが少なくありません。特に本籍地が遠方であったり、転籍を繰り返していたり、相続関係が複雑であったりすると、全ての書類を揃えるのに1ヶ月以上かかることもあります。この書類収集の負担が、検認手続きを「遅滞なく」進める上での現実的な課題となることがあります。しかし、この広範な戸籍収集は、検認の目的の一つである「全ての法定相続人への通知」を確実に行うために不可欠なプロセスです 。裁判所が全ての利害関係者を把握し、手続きに参加する機会を保障するために、この厳密な確認が求められているのです。法定相続情報一覧図の活用 は、この負担を軽減するための一つの策と言えます。  

手続きにかかる期間の目安

検認手続き全体にかかる期間は、いくつかの段階に分けて考える必要があります。

  • 申立て準備期間: 上記の必要書類、特に戸籍謄本を集める期間。相続関係の複雑さによりますが、数週間から1ヶ月以上かかる場合があります 。  
  • 申立てから検認期日まで: 家庭裁判所に申立てを行ってから、実際に検認が行われる期日が指定されるまで、通常は数週間から1ヶ月程度、場合によっては2ヶ月以上かかることもあります 。裁判所の混雑状況や、相続人の数などによって変動します。  
  • 検認期日当日: 検認の審理自体は非常に短時間で、通常5分から15分程度で終了します 。その後、検認済証明書の発行手続きを含めても、1時間程度で完了することが多いようです 。  

したがって、遺言書を発見してから検認済証明書付きの遺言書を手にするまでには、合計で2ヶ月から3ヶ月、あるいはそれ以上かかることを見込んでおく必要があります 。この期間中は、原則として遺言書に基づく相続手続き(不動産の名義変更や預貯金の解約など)を進めることができません 。  

手続きにかかる費用(収入印紙・郵便切手)

検認手続きには、以下の実費がかかります。

  • 申立手数料: 遺言書1通につき800円分の収入印紙が必要です。申立書に貼付して納付します 。  
  • 検認済証明書発行手数料: 検認期日後、検認済証明書の交付を申請する際に、遺言書1通につき150円分の収入印紙が必要です 。  
  • 連絡用郵便切手: 家庭裁判所が相続人全員に検認期日の通知などを郵送するために必要です。必要な切手の種類と枚数は、相続人の数や申立てをする家庭裁判所によって異なりますので、事前に確認が必要です 。相続人の数が多い場合、数千円程度になることもあります 。  
  • 書類取得費用: 各市区町村役場で戸籍謄本などを取得するための手数料。
  • 専門家への報酬(依頼する場合): 弁護士、司法書士、行政書士などに手続き代行を依頼する場合は、別途報酬が発生します。報酬額は事務所や事案の複雑さによって異なりますが、数万円から十数万円程度が相場となることが多いようです 。  

検認期日の流れと相続人の立会い義務

  • 期日の通知: 申立てが受理されると、家庭裁判所は申立人と調整の上で検認期日を決定し 、全ての法定相続人に対して、期日と場所を記載した通知書(検認期日通知書)を郵送します 。出欠確認の回答書が同封されることもあります 。  
  • 出席義務:
    • 申立人: 検認期日には必ず出席しなければなりません 。遺言書の原本、申立書に押印した印鑑、身分証明書など、裁判所から指示されたものを持参する必要があります 。  
    • 申立人以外の相続人: 出席は任意です 。仕事の都合や、裁判所が遠方であるなどの理由で欠席しても、手続きは進められますし、欠席による法的な不利益(罰則など)はありません 。欠席する場合、事前に裁判所に連絡する必要も通常はありません 。相続人は、自身の判断で出席するかどうかを決めることができます。弁護士を代理人として出席させることも可能です 。  
  • 期日当日の進行: 指定された日時に、申立人と出席した相続人が家庭裁判所の指定された部屋(調停室など )に集まります。申立人は持参した遺言書原本を裁判所職員(書記官など )に提出します。裁判官(または家事審判官)と書記官、出席した相続人の立会いのもと、遺言書が確認されます。封印されている遺言書の場合は、この場で裁判官(または書記官)が開封します 。裁判所は、遺言書の用紙、筆記具、日付、署名、押印、訂正箇所などを確認し、その状態を客観的に記録した「検認調書」を作成します 。裁判官から遺言書の発見状況などについて質問されることもあります 。  
  • 期日後の通知: 検認期日に欠席した相続人には、後日、家庭裁判所から検認手続きが終了した旨の通知(検認済通知)が郵送されます 。ただし、この通知には遺言書の内容は記載されていません 。欠席した相続人が遺言の内容を知りたい場合は、申立人にコピーを依頼するか、家庭裁判所に検認調書の謄写(コピーの交付)を申請する必要があります 。  

相続人の出席が任意であることは、手続きの現実的な運用を考慮した結果と言えます。多数の相続人が全国各地に散らばっている場合 、全員の出席を義務付けることは非現実的です。しかし、この運用は情報格差を生む可能性もはらんでいます。期日に出席した相続人は遺言書の現物を確認し、開封に立ち会う機会を得ますが 、欠席者はその機会を逸し、後から申立人や裁判所記録を通じて情報を得るしかありません 。相続人間で信頼関係が築けていれば問題は少ないかもしれませんが、関係が悪化している場合には、欠席した相続人が申立人に対して不信感を抱いたり、情報開示を巡って新たな対立が生じたりするリスクも考えられます。  

検認済証明書の取得と重要性

  • 証明書の交付: 検認期日当日、手続きが無事に終了した後、申立人は家庭裁判所に対して「検認済証明書(けんにんずみしょうめいしょ)」の交付を申請します。申請には、手数料として150円分の収入印紙が必要です 。申請が認められると、裁判所は検認済証明書を作成し、遺言書の原本に合綴(通常はホチキス留めし、割印を押す)して、申立人に返還します 。  
  • 証明書の重要性: この「検認済証明書が付された遺言書」は、その後の相続手続きを進める上で極めて重要な書類となります 。具体的には、以下のような手続きで提出を求められます。
    • 不動産の相続登記(所有権移転登記)
    • 預貯金の解約・名義変更
    • 株式など有価証券の名義変更
    • その他、遺言書に基づいて行う各種の財産移転手続き

これらの手続きを行う機関(法務局、金融機関など)は、自筆証書遺言や秘密証書遺言に基づいて手続きを行う際、その遺言書が家庭裁判所の検認を経ていることの証明として、検認済証明書の添付を要求します 。したがって、検認手続きを経ずに、あるいは検認済証明書を取得せずに、これらの相続手続きを遺言書に基づいて行うことはできません 。  

検認済証明書は、いわば遺言書が公的な手続きを経たことを示す「証明書」であり、その後の行政手続きや金融手続きにおける「通行手形」のような役割を果たします。金融機関や法務局は、提示された遺言書が確かに裁判所の確認を経たものであり、その状態が記録されているという保証を求めます 。遺言書原本に物理的に添付された検認済証明書 は、この保証を提供するものです。この実務上の要求が、検認という法的な義務を、遺言を執行しようとする者にとって避けて通れない実践的な必要性へと転化させているのです。  

4. 検認と遺言の有効性:誤解しやすいポイント

遺言書の検認に関して最も注意すべき点は、検認手続きが遺言書の内容自体の有効性を判断するものではない、ということです。

家庭裁判所の役割:検認は有効性を判断する手続きではない

家庭裁判所が行う検認は、その遺言書が法的に有効か無効かを判断する手続きではありません 。  

検認における家庭裁判所の役割は、あくまで検認日時点での遺言書の物理的な状態(形状、加除訂正、日付、署名など)を確認・記録し、その存在と内容を相続人に知らせることに限定されています 。  

したがって、検認手続きを経た遺言書であっても、以下のような理由で後から無効となる可能性があります。

  • 遺言書が偽造されたものである場合  
  • 遺言作成時に遺言者に十分な判断能力(遺言能力)がなかった場合(例:重度の認知症など)  
  • 民法が定める遺言の方式(例えば自筆証書遺言なら全文自書、日付、署名、押印など)に不備がある場合(方式違反)  
  • 詐欺や強迫によって作成された場合  

逆に、法的に有効な要件を満たしている遺言書であれば、たとえ検認手続きを誤って怠ったとしても、それ自体で遺言が無効になるわけではありません(ただし、前述の通り罰則や手続き上の支障は生じます) 。  

この「検認」と「有効性判断」の分離は、相続手続きにおける重要なポイントです。検認はあくまで遺言書という「物」の状態を保全し、関係者に知らせるための手続きであり、その「法的な効力」を審査するものではない、という点を明確に理解しておく必要があります。

遺言の有効性を争う場合の手続き(遺言無効確認訴訟の概要)

検認を経た遺言書の内容や成立経緯に疑問があり、その有効性を争いたい場合、検認期日の場でその問題を解決することはできません 。  

有効性を争うためには、別途、法的な手続きを取る必要があります。一般的には、まず当事者間での交渉を試み 、合意に至らない場合は家庭裁判所での調停(遺言無効確認調停)を申し立てることが考えられます 。調停でも解決しない場合には、最終的に地方裁判所(家庭裁判所ではありません)に対して「遺言無効確認訴訟」という正式な裁判を起こすことになります 。  

この訴訟では、遺言が無効であると主張する側(原告)が、その根拠となる事実(例えば、遺言能力の欠如、偽造、方式違反など)を証明するための証拠(診断書、カルテ、介護記録、筆跡鑑定、証人尋問など)を提出し、相手方(被告)と主張を戦わせます 。裁判所は、提出された証拠に基づいて審理を行い、最終的に判決で遺言の有効・無効を判断します。この訴訟は専門的な知識を要し、時間も費用もかかることが多い複雑な手続きです 。  

裁判の結果、遺言が無効であると判断されれば(勝訴)、その遺言はなかったものとして扱われ、原則として法定相続のルールに従って遺産分割を行うか、あるいはそれ以前に作成された有効な遺言があれば、そちらが適用されることになります。多くの場合、改めて相続人間で遺産分割協議を行う必要が生じます 。逆に、遺言が有効であると判断されれば(敗訴)、その遺言に基づいて相続が進められることになります 。  

検認(形式の保全・通知)と有効性判断(実質的な効力の審査)が別々の手続きとなっていることは、一見すると非効率に感じられるかもしれません。相続人にとっては、まず検認手続きを行い、その後、必要であれば時間と費用をかけて別途訴訟を起こすという二段階の手順を踏むことになります 。しかし、これは、検認という初期段階の手続きを、あくまで遺言書の物理的な状態の確認と関係者への通知という限定的な役割に留め、複雑な実質的内容の争いは、証拠調べなどを尽くせる本格的な訴訟手続きに委ねるという、法制度上の設計の結果であると考えられます。  

また、検認手続き自体は、遺言能力が疑われるようなケース や形式不備がある可能性のある遺言書であっても、行われることがあります 。この事実は、検認調書や検認済証明書が、あくまで「その日時に、そのような状態の書類が存在した」ことを証明するものであり、その書類が持つ法的な力を保証するものではないことを裏付けています。検認済証明書は、遺言書の内容が正しい、あるいは有効であることのお墨付きではないのです。  

さらに、検認手続きが全ての相続人に遺言書の存在を知らせることで、意図せずとも遺言の有効性を巡る争いを引き起こすきっかけとなる可能性もあります。それまで遺言書の存在を知らなかった、あるいは内容に不満や疑念を抱いていた相続人が、検認の通知を受けて正式に内容を知り 、遺言能力の欠如や不当な影響などを疑って、遺言無効確認訴訟などの対抗措置を検討し始めることがあるからです 。このように、検認は有効性を判断しませんが、関係者間の透明性を確保することで、潜在的な問題を顕在化させ、法的な解決へと導く触媒の役割を果たすことがあると言えるでしょう。  

5. 検認を怠った場合のリスクと罰則

法律で定められた検認手続きを怠ると、法的な制裁や実務上の不利益が生じる可能性があります。

検認せずに開封した場合の過料

検認が必要な遺言書(法務局保管制度を利用しない自筆証書遺言、秘密証書遺言)が封印されている場合、家庭裁判所外で勝手に開封することは民法第1004条第3項で禁止されています 。  

これに違反して開封した場合、民法第1005条に基づき、5万円以下の過料(かりょう)に処せられる可能性があります 。過料は行政上の秩序罰であり、刑事罰ではないため、前科が付くことはありません 。  

重要なのは、誤って開封してしまったとしても、それによって遺言書自体が無効になるわけではない、という点です 。しかし、開封してしまった場合でも、検認手続きは依然として必要です 。開封済みの遺言書をそのままの状態で家庭裁判所に提出し、事情を説明する必要があります 。自己判断で封をし直したりすると、かえって改ざんを疑われる可能性があるので避けるべきです 。  

検認手続きを怠った場合の過料と相続手続きへの影響

遺言書の保管者や発見者が、検認が必要な遺言書を「遅滞なく」家庭裁判所に提出することを怠ったり、検認を経ずに遺言の内容を実現(執行)しようとしたりした場合も、同様に民法第1005条により5万円以下の過料に処せられる可能性があります 。これは、たとえ相続人全員が検認不要と合意していたとしても適用されます 。  

しかし、過料よりも実務上、はるかに大きな影響を与えるのが、相続手続きを進められなくなるという点です 。前述の通り、不動産の相続登記や預貯金の解約・名義変更などの手続きにおいて、法務局や金融機関は検認済証明書が付された遺言書の提出を求めます 。検認を受けていなければ、この証明書が発行されないため、遺言書に基づいた財産の移転が事実上不可能になります。  

さらに、検認手続きの遅れは、他の重要な相続関連の期限にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、相続放棄や限定承認の申述期限(原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内)、相続税の申告・納付期限(原則として相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)などです 。遺言書の内容(特に負債の有無や財産の全体像)は、これらの判断に大きく影響するため、速やかに検認を行い内容を確認することが望ましいと言えます 。  

遺言書の隠匿と相続欠格

もし相続人が、発見した遺言書の内容が自分にとって不利であるなどの理由で、意図的に隠したり(隠匿 - いんとく)、破棄したりした場合、それは単なる手続きの懈怠や過失とは全く異なる重大な問題となります。

このような行為は、民法第891条第5号に定められた「相続欠格事由」に該当し、その相続人は相続権を完全に失うことになります(相続欠格 - そうぞくけっかく) 。相続欠格となった場合、遺言書に記載された財産だけでなく、被相続人の全ての財産について相続する権利を失います 。これは5万円以下の過料とは比較にならない、極めて重い法的効果です。  

検認制度の運用を見ると、5万円以下の過料 という金銭的な制裁よりも、検認済証明書がなければ相続手続きを進められない という実務上の障壁の方が、検認を促す強い動機となっているように見受けられます。遺産を取得するためには検認を経る必要があるという状況が、結果的に法の要請を守らせる力を持っていると言えるでしょう。  

一方で、単なる手続き違反(懈怠や不適切な開封)に対する過料と、意図的な遺言書の隠匿・破棄に対する相続権剥奪(相続欠格)という厳しい措置との間には、明確な差が設けられています 。これは、遺言者の意思と相続制度の根幹を揺るがす悪質な行為に対しては厳罰をもって臨む一方で、手続き上の過誤については比較的軽い制裁に留めるという法の姿勢を反映しています。  

法的に見れば、検認を怠ったからといって遺言書自体が無効になるわけではありません 。しかし、その遺言書は公的な手続きにおいては「使えない」状態に置かれます 。これにより、相続人は遺言書に基づかない方法、例えば相続人全員による遺産分割協議 で解決を図ろうとするかもしれません。しかし、相続人の一人でも遺言通りの分割を主張する場合 や、協議がまとまらない場合には、検認されていない遺言書の存在が手続きを停滞させる原因となり得ます。結局、遺言書の内容を実現するためには、多くの場合、検認を経ることが唯一の現実的な道筋となるのです 。  

6. 相続人・遺言執行者が知っておくべきこと

検認手続きやその後の遺言執行に関して、相続人や遺言執行者が疑問に思う点や、注意すべき事項、遭遇しやすいトラブルについて解説します。

遺言執行者の検認申立て義務

遺言書の中で遺言執行者が指定されている場合、その遺言書が検認を要する種類(法務局保管でない自筆証書遺言、秘密証書遺言)であれば、遺言執行者は引き受けることを承諾した後原則として検認の申立てを行う責任を負います 。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有しており 、検認はその第一歩となる手続きです。  

民法1004条では検認申立義務者を「保管者」または「発見者」としていますが 、指定された遺言執行者が遺言書を保管している場合には、その者が保管者として「遅滞なく」検認を申し立てるべきと考えられます 。  

特に、遺言による子の認知や、相続人の廃除・廃除の取消しといった特定の事項は、遺言執行者しか行うことができないと法律で定められています 。これらの内容を含む遺言の場合、遺言執行者が選任され、かつ遺言書が(検認を経て)有効に執行できる状態にあることが不可欠です。  

遺言書で遺言執行者が指定されていない場合や、指定された人が既に亡くなっている場合などには、相続人などの利害関係人が家庭裁判所に申し立てて、遺言執行者を選任してもらうことができます 。この選任申立ての際には、検認済みの遺言書の写し(検認調書謄本)が必要となるのが一般的です 。  

複数の遺言書が見つかった場合の対応と効力の優先順位

遺品整理などの過程で、故人が作成した複数の遺言書(例えば、日付の異なる自筆証書遺言が数通)が発見されることがあります。この場合の対応と効力の判断は以下の通りです。

  • 検認: 発見された遺言書のうち、検認が必要な種類のもの(法務局保管でない自筆証書遺言、秘密証書遺言)が複数ある場合は、その全てについて検認を申し立てる必要があります 。検認は個々の遺言書の現状を保全するための手続きであり、どの遺言が最終的に有効かを判断するものではないためです 。  
  • 効力の優先順位: 複数の有効な遺言書が存在する場合、原則として作成日付が最も新しい遺言書の内容が、それより前に作成された遺言書の内容と矛盾・抵触する部分について優先されます(後遺言優先の原則) 。  
  • 抵触しない部分の効力: 新しい遺言書と内容が抵触しない部分については、古い遺言書も依然として有効です 。例えば、古い遺言でA不動産について、新しい遺言でB銀行の預金についてのみ定めている場合、両方の記載が有効となる可能性があります 。しかし、古い遺言で「全財産を長男に」とし、新しい遺言で「全財産を次男に」と定めている場合は、新しい遺言が古い遺言を実質的に撤回したものとみなされます 。  
  • 遺言の種類は無関係: 優先順位は作成日付のみで決まり、遺言書の種類(自筆証書か公正証書かなど)は影響しません 。日付が新しければ、自筆証書遺言が公正証書遺言に優先することもあります(ただし、その自筆証書遺言自体が有効であることが前提です) 。  
  • 有効性の確認: 上記の優先順位は、あくまで複数の遺言書がいずれも法的に有効であることが前提です。もし新しい日付の遺言書が無効(例えば、作成時に遺言能力がなかった、方式に不備があるなど)であれば、それより前の日付の有効な遺言書の内容が適用されることになります 。  

複数の遺言書が存在する可能性は、相続手続きを進める上で注意すべき点です。遺言執行者や相続人は、故人の自宅、貸金庫、弁護士・司法書士事務所、公証役場(公正証書遺言の検索 )、法務局(保管制度利用の自筆証書遺言の検索 )など、考えられる場所を十分に調査し、全ての遺言書を発見するよう努める必要があります。最新の遺言を見落としてしまうと、故人の最終意思とは異なる遺産分割を行ってしまうリスクがあるためです。  

遠方の相続人がいる場合の対応

相続人の中に遠方に居住している人がいる場合、検認手続きは以下のように進められます。

  • 管轄裁判所: 検認の申立ては、あくまで遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に対して行います 。相続人の居住地は関係ありません。申立人が遠方に住んでいる場合は、申立てや期日への出頭のために移動が必要になる可能性があります。  
  • 申立て方法: 申立書の提出は、裁判所に直接持参するだけでなく、郵送でも可能な場合が多いです 。遠方の申立人にとっては、郵送申立てが負担軽減につながります。書留郵便(レターパックなど)を利用することが推奨されます 。  
  • 期日への出席: 検認期日当日に必ず出席しなければならないのは申立人のみです。他の相続人は、遠方に住んでいるなどの理由で出席できなくても問題ありません 。  
  • 情報共有: 遠方に住んでいて期日に欠席した相続人には、裁判所から検認が終了した旨の通知は届きますが、遺言の内容までは知らされません 。内容を知るには、申立人に確認するか、裁判所に検認調書の謄写を申請する必要があります 。申立人から他の相続人へ事前に連絡を取り、検認手続きについて説明しておくことが、無用な疑念を避ける上で有効です 。  
  • 検認後の手続き: 検認自体は遠方の相続人の出席がなくても進みますが、その後の遺産分割協議(もし必要であれば)や財産の分配手続きにおいては、遠方の相続人との連絡や書類のやり取りが必要になります。この点、検認が不要な公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言は、相続人全員の署名・押印が必要な遺産分割協議書を作成する手間を省ける可能性があるため、相続人が各地に散らばっている場合に特にメリットが大きいと言えます 。  

よくある質問(開封、欠席の影響、代理人など)と回答

  • Q: 誤って封印のある遺言書を開封してしまいました。検認は必要ですか?
    • A: はい、必要です。開封してしまった場合でも、遺言書自体が無効になるわけではありませんが、検認手続きは省略できません 。開封した状態のまま家庭裁判所に提出し、事情を説明してください。5万円以下の過料に処せられる可能性はありますが、検認自体は受けられます。  
  • Q: 検認を受ければ、その遺言書は法的に有効だと認められたことになりますか?
    • A: いいえ、なりません。検認は遺言書の有効性を判断する手続きではありません 。あくまで遺言書の物理的な状態を確認し、相続人に知らせるための手続きです。検認後でも、遺言の有効性を争うことは可能です。  
  • Q: 検認期日には、相続人全員が出席しなければなりませんか?
    • A: いいえ。必ず出席しなければならないのは申立人のみです。他の相続人の出席は任意です 。  
  • Q: 相続人が検認期日に欠席した場合、何か不利益はありますか?
    • A: 法的な罰則や相続権への影響はありません 。手続きも通常通り進められます。ただし、期日当日に遺言書の現物を確認したり、開封に立ち会ったりする機会を失います。遺言の内容は裁判所からは通知されないため 、申立人から教えてもらうか、後日、裁判所に検認調書の謄写を申請する必要があります 。後で遺言の有効性を争う権利が失われることもありません 。  
  • Q: 弁護士に代理で検認期日に出席してもらうことはできますか?
    • A: はい、可能です。相続人は弁護士を代理人として検認期日に出席させることができます 。ただし、司法書士や行政書士は、原則として検認期日の代理人となることはできません 。  
  • Q: 複数の遺言書が見つかった場合、どうすればよいですか?
    • A: 検認が必要な種類の遺言書であれば、全てについて検認を申し立てる必要があります 。効力の優先順位は、原則として日付の新しいものが、古いものと抵触する部分について優先されます 。  

検認期日への出席が任意であること、そして欠席者には遺言内容が自動的に通知されない仕組みは、特に相続人間の関係が良好でない場合に、不信感や対立を助長する可能性があります。出席した申立人が情報を適切に共有しない場合、欠席した相続人は疑心暗鬼になり、検認調書の謄写請求 などの追加的な手続きや、場合によっては紛争へと発展しかねません。この点は、検認制度の運用における一つの課題とも言えるでしょう。  

起こりうるトラブル事例とその対処法

検認手続きや遺言の執行を巡っては、様々なトラブルが発生する可能性があります。

  • 事例1:相続人の一人が遺言書を保管しているが、検認の申立てを拒否している。
    • 対処法: まず、検認が法的な義務であること、怠ると過料の可能性があること、そして検認を経なければ不動産の名義変更や預貯金の解約などができないことを説明し、協力を求めます 。それでも応じない場合、他の相続人が検認を申し立てることも考えられますが、遺言書の原本がなければ手続きは困難です。遺言書を隠匿していると疑われる場合は、相続欠格を主張することも視野に入れますが、立証は容易ではありません 。最終的には、遺言書がないものとして遺産分割調停を申し立て、相手方に遺言書の提出を促すか、法定相続分での解決を目指すといった方法が考えられます 。  
  • 事例2:検認を経ずに遺産分割協議で遺産を分けてしまった後で、検認が必要な遺言書が発見された。
    • 対処法: 発見された遺言書が検認を要するものであれば、遅れてでも検認手続きを行うべきです 。遺言の内容が既に行った遺産分割協議の内容と異なる場合、状況は複雑になります。相続人全員が改めて遺産分割協議の内容に合意すれば、その合意が優先される可能性があります(ただし、遺言執行者がいる場合は別 )。しかし、一人でも遺言の内容に従うべきだと主張する相続人がいれば、先の遺産分割協議の有効性が争われ、再協議や法的手続きが必要になる可能性があります。  
  • 事例3:検認は済んだが、遺言書の筆跡が故人のものと違うように思える、または作成時に故人は認知症で判断能力がなかった疑いがある。
    • 対処法: 検認は有効性を判断しないため 、これらの疑いがある場合は、別途「遺言無効確認訴訟」を提起する必要があります 。訴訟に先立ち、遺言能力に関する医療記録や介護記録、偽造を疑う場合は故人の他の筆跡資料などを収集し、弁護士に相談することが重要です 。  
  • 事例4:遺言執行者に指定された相続人が、自分に有利なように手続きを進めたり、手続きを怠ったりしている。
    • 対処法: 遺言執行者に任務懈怠や不正行為、著しい偏頗行為など、「正当な事由」があると認められる場合、他の相続人などの利害関係人は家庭裁判所に遺言執行者の解任を申し立てることができます 。解任を求めるには、具体的な理由と証拠が必要です 。  
  • 事例5:遺言書の内容が曖昧で、具体的にどの財産を指しているのか不明確(例:「自宅不動産を長男に相続させる」とあるが、複数の不動産を所有していた場合など)。
    • 対処法: 検認を経ても、このような記載では不動産の登記手続きなどができない可能性があります 。遺言全体の趣旨や他の証拠から遺言者の意思を合理的に解釈できる場合もありますが 、解釈を巡って相続人間で争いが生じたり、法務局や金融機関が手続きを受け付けなかったりする可能性があります。最終的には相続人間の合意形成や、裁判所の判断が必要になることもあります。これは、遺言書作成段階での明確な記載の重要性を示唆しています。  

遺言執行者に関して、相続人の一人を執行者に指定すること自体は問題ありません 。しかし、他の相続人から不公平感を抱かれたり、手続きの負担が重すぎたり、専門知識が不足していたりといったトラブルが生じやすい側面もあります 。特に相続人間の関係が複雑な場合や、遺産の内容が多岐にわたる場合には、費用はかかりますが、弁護士や司法書士、信託銀行などの専門家を遺言執行者に指定しておくことが、後の紛争予防策として有効な場合があります 。これは遺言を作成する際に検討すべき重要な点の一つです。  

7. まとめ:遺言書検認の重要性と専門家への相談

検認手続きの重要性の再確認

遺言書の検認は、法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言や秘密証書遺言について、法律で定められた不可欠な手続きです 。その主な目的である「偽造・変造の防止」と「相続人全員への告知」は、遺言者の意思を尊重し、公平で円滑な相続を実現するための基礎となります 。  

この手続きを怠ると、5万円以下の過料という制裁を受ける可能性があるだけでなく、より重大な問題として、遺言書に基づいた不動産の名義変更や預貯金の解約といった相続手続きを進めることができなくなります 。意図的に遺言書を隠匿した場合には、相続権そのものを失うという極めて重い結果を招きます 。  

検認は遺言の有効性を判断するものではありませんが、対象となる遺言書を法的に執行可能な状態にするための、避けては通れない第一歩なのです 。  

円滑な手続きのためのアドバイス

検認手続きをスムーズに進めるためには、以下の点に留意することが推奨されます。

  • 迅速な対応: 検認が必要な遺言書を発見した場合、民法の定める「遅滞なく」の精神に従い、速やかに手続きに着手しましょう 。これにより、過料のリスクを避け、相続放棄や相続税申告など他の期限への影響を最小限に抑えることができます。  
  • 早期の書類収集: 相続人を確定するための戸籍謄本の収集は、予想以上に時間がかかる場合があります。特に相続関係が複雑な場合は、早期に収集を開始することが肝要です 。法定相続情報一覧図の活用も検討しましょう 。  
  • 相続人間での情報共有: 遺言書を発見し、検認を申し立てる際には、事前に他の相続人にもその旨を伝えておくことが、後の誤解や不信感を防ぐ上で有効です 。  
  • 検認の範囲の理解: 検認はあくまで形式的な確認であり、有効性を保証するものではないことを理解しておきましょう。有効性に疑問がある場合は、別途、専門家への相談や法的手続きが必要になります 。  
  • 封印の維持: 封印のある遺言書は、家庭裁判所の検認期日まで絶対に開封しないでください 。  

専門家(弁護士、司法書士、行政書士)への相談推奨

遺言書の検認手続き、特に戸籍謄本の収集や家庭裁判所への申立書類の作成は、一般の方にとっては煩雑で時間のかかる作業となることがあります 。  

このような場合、相続問題に詳しい専門家、すなわち弁護士、司法書士、行政書士に相談・依頼することを検討する価値があります。これらの専門家は、申立書の作成、必要書類の収集代行、手続きに関するアドバイスなどを提供できます 。  

特に弁護士は、検認期日への代理出席や、遺言の有効性を巡る紛争(遺言無効確認訴訟)、遺産分割に関する調停・審判など、法的な代理人として活動することができます 。  

以下のようなケースでは、専門家への相談を特に推奨します。

  • 相続人間の関係が複雑、または既に対立が生じている場合  
  • 相続人の数が多く、戸籍の収集や連絡調整が困難な場合  
  • 申立人が遠方に住んでいるなど、手続きの負担が大きい場合  
  • 遺言書の有効性(遺言能力、偽造、方式など)に疑義がある場合  
  • 複数の遺言書が見つかり、どれが有効か判断が難しい場合  
  • 遺言執行者の選任が必要な場合や、遺言執行者の職務遂行に問題がある場合  

相続手続き、特に検認のような裁判所が関与する手続きは、専門的な知識と経験が求められる場面が少なくありません。専門家のサポートを得ることは、手続きを正確かつ迅速に進めるだけでなく、潜在的なリスクを回避し、無用な紛争を未然に防ぐための有効な手段となり得ます。手続き上の誤りや遅延、相続人間の対立激化といった事態を避けるためにも、不安や疑問を感じた際には、早期に専門家へ相談することをお勧めします。

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