持ち家の売却と生活保護:制度理解と適切な対応への手引き

1. はじめに:持ち家売却と生活保護制度の基本

生活保護制度は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的としています。この制度を利用するにあたり、持ち家などの資産を所有している場合、その取り扱いが重要な課題となります。

生活保護制度の目的と資産活用の原則

生活保護制度の根幹には、「補足性の原理」があります。これは、生活保護法第4条第1項に明記されており、保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われるというものです 。つまり、生活保護は、他に利用できる手段がない場合の最終的なセーフティネットとして機能します。  

この「資産活用」の原則において、「資産」には土地や家屋といった不動産も含まれます。したがって、持ち家を所有している場合、原則としてそれを売却し、得られた資金を生活費に充当することが求められます 。この原則は、生活保護制度が国民の税金によって賄われている以上、まずは自身の資産を最大限に活用するという公平性と制度の持続可能性を担保するために不可欠な考え方です。  

この資産活用の原則は、単なる事務的な手続きではなく、日本の福祉制度における根源的な理念、すなわち、国に頼る前にまず自力で生活を維持しようと努めるという社会的な期待を反映しています。この理念を理解することは、福祉事務所とのやり取りにおいて、その指導の背景や意図を把握する上で助けとなります。

しかしながら、持ち家の売却と生活保護の申請・受給を同時に進めることは、経済的に困窮し、精神的にも大きな負担を抱えている方々にとって、計り知れないほどの困難を伴う場合があります。複雑な制度、多くの書類、そして将来への不安は、適切な判断をさらに難しくさせます。

2. 持ち家と生活保護:保有か売却かの判断基準

生活保護を申請する際、持ち家を所有している場合は、原則としてその家を売却し、生活費に充てるよう指導されます。しかし、全てのケースで売却が必須となるわけではなく、一定の条件下では持ち家の保有が認められることもあります。

原則:持ち家は売却指導の対象

厚生労働省が示す生活保護制度における不動産保有の基本的な考え方では、まず売却して生活費に充てることが原則とされています 。

これは、生活保護が最低限度の生活を保障するための制度であり、個人の資産形成を目的としていないためです。福祉事務所は、生活保護の申請があった際に資産状況を調査し、売却可能な不動産(持ち家など)があると判断した場合、原則としてその売却を指導します 。  

例外:持ち家の保有が認められる条件

持ち家の保有が例外的に認められるのは、主に以下の条件を総合的に勘案した結果、売却することが申請者の自立を著しく阻害する、または人道上問題があると判断される場合です。

居住の必要性と活用状況

現に居住の用に供されている家屋及びそれに付随する土地については、その保有が容認される場合があります 。

具体的には、その家を売却してしまうと他に住む場所がなくなり、かえって生活が困窮してしまうと福祉事務所が判断した場合などです 。

また、売却が著しく困難な状況にある場合も、保有が認められることがあります 。

例えば、高齢や重度の障害により転居が極めて難しい場合や、地域社会との深いつながりがあり、転居によって社会的に孤立してしまう恐れがある場合などが、総合的に考慮される要素となり得ます。  

資産価値の評価:「処分価値が利用価値に比して著しく大きい」かの判断

居住用の持ち家であっても、その処分価値(売却して得られると見込まれる価格)が、利用価値(その家に住み続けることの価値や必要性)と比較して「著しく大きい」と判断される場合には、売却指導の対象となります 。  

この「著しく大きい」かどうかの判断目安として、厚生労働省は「標準3人世帯の生活扶助基準額に同住宅扶助特別基準額を加えた額の概ね10年分(約2,000万円程度)」という基準を示しています 。

この約2,000万円という資産価値の基準は、硬直的な線引きではなく、福祉事務所がより詳細な調査を行うための「トリガーポイント」と理解すべきです。

この金額は、およそ10年間の生活費に相当し、これだけの資産価値があれば、公的扶助に頼らずとも相当期間自活できる潜在能力があると見なされる水準です。したがって、この基準を超える資産価値のある持ち家は、原則として売却対象とされやすくなります。  

ただし、この2,000万円という基準は絶対的なものではなく、あくまで目安です。

最終的には、物件の所在地や状態、売却の現実的な可能性、世帯員の状況(年齢、健康状態、障害の有無など)、地域における住宅事情といった個別の状況を総合的に勘案して、福祉事務所が判断します 。たとえ資産価値がこの基準を超えていても、売却が著しい困難を伴う場合や、売却によって申請者の生活が著しく悪化するような特段の事情があれば、保有が認められる余地も残されています。  

「処分価値が利用価値に比して著しく大きい」という概念は、家が単なる金融資産ではなく、社会的・個人的な効用も持つことを認めた上での、微妙なバランス判断を求めるものです。福祉制度はこれらの要素を比較衡量しようとしますが、資産価値が高い場合、生活保護の補足性の原理から、経済的な自己負担能力が優先される傾向にあります。

住宅ローンの有無とその影響

住宅ローンが残っている持ち家は、原則として生活保護の受給が認められません 。これは、生活保護費が住宅ローンの返済に充当されることを避けるためです。生活保護費は最低限の生活を支えるためのものであり、税金によって個人の資産形成(住宅ローンの返済による負債の減少と純資産の増加)を援助する形になることは、制度の趣旨に反すると解釈されます。  

この住宅ローンに関する厳格な姿勢は、公的資金が私的資産の蓄積に使われることを防ぐという、より深い政策的配慮を反映しています。たとえ持ち家の保有が認められたとしても、公的扶助は生活費のためであり、住宅ローンの返済のためではないという明確な線引きが存在します。

例外的に、住宅ローンの残高がごくわずかで、かつ極めて短期間(例えば、東京都の基準では残高300万円以下で5年以内に完済見込みなど、自治体によって基準は異なります)で完済が見込める場合には、保有が認められることも報告されていますが、これは非常に稀なケースです 。このような例外が存在するのは、資産形成への影響がごく僅かであり、売却を強制することによる行政的・社会的コストが、得られる利益を上回る可能性があるためと考えられます。  

多くの場合、住宅ローンが残っているのであれば、任意売却などによってローンを完済するか、少なくとも大幅に減額することが、生活保護受給の前提条件となります 。  

その他の保有容認ケース

上記以外にも、以下のような場合には持ち家の保有が認められる可能性があります。

  • 持ち家の資産価値が非常に低く、売却しても生活費の足しにならず、むしろ転居費用などで生活がさらに困窮すると判断される場合(例:老朽化した家屋、過疎地の物件など)。  
  • 自営業を営んでおり、その店舗兼住宅がなければ生計が成り立たないと認められる場合 。  

これらの判断は、いずれも福祉事務所が個別の状況を詳細に調査した上で行います。

3. 持ち家売却の手続きと福祉事務所との連携

生活保護の申請を検討している、あるいはすでに受給している方が持ち家を売却する場合、福祉事務所との密な連携が不可欠です。手続きの進め方や報告義務を怠ると、生活保護の受給資格に影響が出る可能性があるため、慎重な対応が求められます。

売却前の福祉事務所への相談・報告義務

持ち家の売却を考え始めた段階で、まずは管轄の福祉事務所に相談し、その意向を伝えることが最も重要です 。生活保護の申請前であっても、売却を進める前に相談することで、後の手続きを円滑に進めることができます。  

福祉事務所は、相談者から不動産の詳細(所在地、種類、築年数、評価額、住宅ローンの有無と残高、居住状況など)を聴取し、売却の必要性や適切な進め方について指導を行います 。この際、正直かつ正確な情報を提供することが、信頼関係を築き、適切な助言を得るための基本となります。  

福祉事務所に無断で売却を進めた場合、売却価格の妥当性や売却益の取り扱いについて疑義が生じたり、最悪の場合、資産隠しと見なされて生活保護の受給資格を失ったり、不正受給として保護費の返還を求められたりするリスクがあります 。したがって、どのような状況であれ、まずは福祉事務所に報告・相談し、その指示に従うことが鉄則です。  

売却活動の進め方と留意点

福祉事務所から持ち家の売却指導があった場合、または売却の承認が得られた場合は、速やかに売却活動を開始する必要があります。一般的な流れとしては、まず複数の不動産業者に物件の査定を依頼し、適正な市場価格を把握します 。査定結果や売却方針について福祉事務所に報告し、了承を得た上で、不動産業者と媒介契約(売却の仲介を依頼する契約)を締結します。  

売却活動を開始した後は、その進捗状況を定期的に福祉事務所に報告する義務が生じます 。報告内容には、不動産業者からの活動報告書、物件への問い合わせ件数、内覧の状況、購入希望者からの交渉内容などが含まれます。これらの記録は、売却に向けて真摯に努力していることを示す証拠となります。福祉事務所が売却活動の定期的な報告を求めるのは、単に手続き的なものではなく、申請者が資産を現金化するために真剣に取り組んでいるかを確認するためのメカニズムです。売却可能と判断される物件について、具体的な行動が見られない場合は、資産活用の要件を満たしていないと見なされ、保護の継続が危うくなる可能性があります。  

福祉事務所は、売却価格が不当に低くないか、売却によって得られる資金が最大限生活維持に活用されるかといった点にも注意を払います。これは、福祉事務所が公的資金の適正な運用を監督する立場にあるためであり、売却プロセスにおける一種の監査役のような役割を果たすことを意味します。そのため、売却活動に関する透明性の高い情報共有が求められます。

売却が困難なケースの対応

持ち家の売却がスムーズに進まないケースも少なくありません。特に、共有名義の不動産や、長期間買い手がつかない物件、相続問題が未解決の物件などは、対応が複雑になります。

  • 共有名義の場合: 不動産が夫婦や親子などの共有名義になっている場合、不動産全体を売却するには原則として共有者全員の同意が必要です 。民法第251条第1項にも規定されている通り、共有物の変更行為(売却など)には他の共有者の同意が必要とされています 。もし他の共有者が売却に同意しない場合、申請者自身の共有持分のみを売却するという選択肢も考えられます。ただし、共有持分のみの売却は一般的に市場性が低く、専門の買取業者への売却が主となり、売却価格が全体の市場価格に比べて大幅に低くなる可能性があります 。このような状況では、福祉事務所に対し、共有者との協議の経緯や、売却の現実的な困難性を具体的に説明し、指示を仰ぐ必要があります。  
  • 買い手がつかない場合: 物件の立地条件が悪い、建物が著しく老朽化している、市場の需要が低いなどの理由で、長期間にわたり売却活動を行っても買い手が見つからない場合があります 。この場合も、どのような売却努力(広告掲載の頻度や内容、価格の見直し、不動産業者からの定期的な報告など)をしてきたのか、その具体的な記録とともに福祉事務所に詳細に報告することが重要です 。単に「売れない」と主張するだけでなく、売却に向けた継続的かつ具体的な行動を示さなければ、「売却困難」とは認定されにくいのが実情です。  
  • 相続問題が絡む場合: 相続登記が未了であったり、相続人間で遺産分割協議がまとまっていなかったりする場合、不動産の売却は法的に不可能です 。このような場合は、相続手続きの進捗状況や、法的な問題解決に向けた取り組み(弁護士への相談状況など)を福祉事務所に報告し、今後の対応について指示を受ける必要があります。  

共有名義や相続問題のように、売却に法的な制約や第三者の協力が不可欠な複雑な問題を抱える物件については、福祉事務所もより詳細な状況把握に努めます。直ちに売却することが不可能であると判断される場合、福祉事務所の焦点は、「今すぐ家を売ること」から「将来的な売却を可能にするために、申請者がどのような合理的な措置を講じているか」へと移行することがあります。例えば、共有者との交渉状況や、法的分割手続きの検討状況などが問われることになるでしょう。このプロセスにおいても、福祉事務所への定期的な報告と相談は不可欠です。場合によっては、福祉事務所が弁護士や司法書士などの専門機関への相談を指示することもあります 。  

4. 売却益の取り扱いと生活保護への影響

持ち家を売却して得た資金(売却益)は、生活保護の受給資格や支給額に直接的な影響を及ぼします。福祉事務所は、この売却益を収入として認定し、その額に応じて保護費の返還、支給停止、あるいは廃止といった措置を講じます。

売却益の収入認定

持ち家を売却して得られた金銭は、原則として「収入」として認定されます 。この収入認定の対象となるのは、単に売却価格そのものではなく、売却価格から売却に要した諸経費(不動産仲介手数料、登記費用、測量費、建物の解体費用など)や、売却に伴い納付が必要となった税金(譲渡所得税など)を差し引いた後の、実際に生活費として活用可能な「手取り額」です。この「手取り額」の正確な計算は非常に重要であり、申請者は売却に関連する全ての支出を正確に記録し、証明する必要があります。  

福祉事務所は、売買契約書、不動産業者や司法書士への支払いを証明する領収書、税金の納付証明書、そして売却代金が振り込まれた預金通帳などを確認し、正確な収入額を把握します 。  

生活保護費の返還・支給停止・廃止の基準

売却益の額に応じて、それまでに受給した生活保護費の全部または一部の返還を求められることがあります 。これは、売却益によって一時的にでも最低生活費を賄える状態になったと見なされるためです。  

売却益が一定額を超える場合、生活保護が一時的に「支給停止」されたり、あるいは相当期間生活を維持できると判断されれば「廃止」されたりします 。これらの措置は、生活保護の「補足性の原理」に基づいています。つまり、自己の資産で生活を維持できる間は公的扶助の対象とならず、その資産が尽きた時点で改めて保護の必要性が判断されるという考え方です。  

具体的な基準としては、以下のような目安が示されています。

  • 返還: 売却益が、それまでに受給した保護費の範囲内である場合や、最低生活費1ヶ月分に満たない程度の少額である場合、その利益分を返還することで、保護が継続されることがあります 。  
  • 支給停止: 売却益が最低生活費の1ヶ月分以上6ヶ月分未満程度である場合、その期間は自己資金で生活できると判断され、保護が一時的に停止されることが一般的です 。停止期間が終了し、再び生活に困窮した場合は、保護の再開を求めることができます。  
  • 廃止: 売却益が最低生活費の6ヶ月分を超えるなど、相当期間(例えば半年以上)自活可能と判断される場合は、保護そのものが廃止されます。この場合、将来再び生活に困窮した際には、改めて生活保護の申請手続きを行う必要があります 。  

これらの基準における「最低生活費」とは、個々の世帯の構成や地域によって定められるものであり、具体的な金額は福祉事務所に確認する必要があります。売却益による保護の停止・廃止の判断は、この最低生活費との比較によって行われます。

売却益の報告を怠ったり、不正確な報告をしたりした場合、不正受給と見なされるリスクがあります。不正受給と判断されると、受給した保護費の返還はもちろんのこと、場合によっては加算金(最大で受給額の40%増)の徴収や、悪質なケースでは詐欺罪として刑事告発される可能性も否定できません 。透明性のある正確かつ迅速な報告が極めて重要です。  

売却に伴う税金(譲渡所得税と3000万円特別控除)

持ち家を売却して利益(譲渡所得)が生じた場合、その利益に対して所得税および住民税(これらを総称して譲渡所得税と呼ぶことがあります)が課税される可能性があります 。  

ただし、居住用財産(マイホーム)を売却した場合には、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」という特例が適用できることがあります 。この特例を利用すると、譲渡所得から最大で3,000万円が控除されるため、多くのケースで譲渡所得税の負担が大幅に軽減されるか、あるいは全くかからなくなることもあります。  

この3,000万円特別控除の適用を受けるためには、いくつかの要件を満たした上で、売却した翌年に確定申告を行う必要があります 。主な要件としては、自分が住んでいた家屋であること、売却先が配偶者や直系血族などの特別な関係者でないことなどが挙げられます 。  

福祉事務所が収入認定する売却益は、原則としてこれらの税金を支払った後の手取り額となります。したがって、3,000万円特別控除を適切に利用して税負担を軽減することは、結果的に生活保護への影響を最小限に抑えることにも繋がります。税金の計算や特例の適用については複雑な場合が多いため、税務署や税理士に相談し、正確な情報を得ることが重要です。

5. 専門家への相談と支援

持ち家の売却と生活保護の申請・受給は、法制度や手続きが複雑に絡み合うため、専門家の助言や支援が非常に有効です。状況に応じて、弁護士、司法書士、不動産業者、さらにはNPO法人などの支援機関に相談することを検討しましょう。

弁護士、司法書士、不動産業者の役割と相談のポイント

それぞれの専門家が持つ役割と、相談する際のポイントは以下の通りです。

  • 弁護士
    • 役割: 生活保護の申請や受給に関する法的な権利擁護、福祉事務所との交渉や行政不服申し立ての代理、持ち家の売却に伴う法的な問題(例えば、共有名義者との意見対立、契約上のトラブルなど)の解決支援、遺産分割協議の代理などを行います 。  
    • 相談のポイント: 生活保護の受給条件や資産の取り扱いについて法的な観点からアドバイスを受けたい場合、福祉事務所の決定に不服がある場合、売却に関して法的な紛争が生じている場合に相談すると良いでしょう。相談時には、これまでの経緯や所有している書類(不動産の権利証、福祉事務所とのやり取りの記録など)を整理して持参すると、スムーズな相談に繋がります。
  • 司法書士
    • 役割: 持ち家の売却に伴う不動産登記手続き(所有権移転登記、抵当権抹消登記など)を専門に行います。また、相続が絡む場合の相続登記も担当します。一部の司法書士は、生活保護の申請手続きに関する相談に応じてくれることもあります 。  
    • 相談のポイント: 不動産の売買契約が成立し、名義変更等の登記手続きが必要になった場合に依頼します。生活保護の状況を伝え、売却益の取り扱いや福祉事務所への報告についてもアドバイスを求めると良いでしょう。
  • 不動産業者
    • 役割: 持ち家の市場価値の査定、売却活動の実行(購入希望者の探索、内覧対応、価格交渉など)、任意売却に関する相談や金融機関との交渉サポートなどを行います 。また、福祉事務所への売却活動状況の報告に必要な書類(査定書、媒介契約書、活動報告書など)の作成に協力してくれることも期待できます。  
    • 相談のポイント: 持ち家の売却を具体的に進める段階で相談します。複数の不動産業者に査定を依頼し、査定価格だけでなく、販売戦略や担当者の対応なども比較検討することが重要です。生活保護の状況を正直に伝え、福祉事務所の指導内容を共有することで、より適切な売却活動のサポートを受けられます。

これらの専門家への相談は、それぞれが独立した役割を担っているため、問題の性質に応じて適切な専門家を選ぶ必要があります。例えば、不動産の売却自体は不動産業者が行いますが、売却益が生活保護に与える影響や、福祉事務所との法的な交渉については弁護士の領域となります。このように、持ち家の売却と生活保護の問題は多岐にわたるため、一人の専門家だけでは対応しきれない場合も少なくありません。

6. まとめ

持ち家を所有しながら生活保護の利用を検討する、あるいは受給中に持ち家を売却するという状況は、多くの法制度や手続きが複雑に絡み合い、精神的にも大きな負担を伴うものです。本レポートで解説してきたように、生活保護制度の根幹にある「資産活用の原則」を正しく理解し、ご自身の状況に合わせて計画的に対応を進めることが極めて重要です。

福祉事務所との緊密な連携は、このプロセス全体を通じて最も基本的な要件です。持ち家の状況、売却の意向、売却活動の進捗、そして売却によって得られた資金について、正直かつ迅速に報告・相談することが、無用なトラブルを避け、生活保護の適正な受給を継続するための鍵となります。この報告義務を軽視すると、最悪の場合、不正受給と見なされ、保護の打ち切りや受給した保護費の返還、さらには法的な措置に至る可能性も否定できません。

持ち家の資産価値、住宅ローンの有無とその残高、ご自身やご家族の居住の必要性、売却の現実的な可能性といった要素を総合的に考慮し、どの選択がご自身の生活再建にとって最善であるかを見極める必要があります。その過程では、本レポートで触れた弁護士、司法書士、不動産業者といった専門家のアドバイスを積極的に活用することが、より賢明な判断を下す上で大きな助けとなるでしょう。

生活保護制度は、真に生活に困窮する人々が最低限度の文化的な生活を営む権利を保障し、自立を支援するための最後の砦です。この制度の趣旨を深く理解し、福祉事務所や関係機関に対して誠実に対応することで、必要な支援を受ける道は開かれます。

不動産売却でお困りの際は、お気軽に弊社までお問い合わせください。