相続人が一人の場合の遺言書検認
相続が発生した際、法定相続人がお一人だけというケースがあります。例えば、配偶者や子供がすでにおらず、兄弟姉妹もいない場合や、他の相続人全員が相続放棄をした場合などです。このような場合、遺産の分け方を決める「遺産分割協議」は原則として不要となり、相続手続きが比較的シンプルに進むことが多いです 。
しかし、亡くなった方(被相続人)が遺言書を残していた場合、相続人が一人であっても「検認」という家庭裁判所の手続きが必要になるケースがあります。
1. 相続人が一人の場合、遺言書の検認は必要?
結論から言うと、相続人が一人であること自体を理由に、検認手続きが不要になるわけではありません。検認の要否は、あくまで遺言書の種類と保管状況によって決まります 。
検認が必要となるケース
以下の種類の遺言書が発見された場合、たとえ相続人が一人であっても、家庭裁判所での検認が必要です。
- 自筆証書遺言(法務局の保管制度を利用していないもの): 故人が全文、日付、氏名を自書し、押印した遺言書で、自宅や貸金庫などで保管されていたもの 。
- 秘密証書遺言: 遺言者が作成・署名押印し、封印した遺言書を公証人と証人の前で自身のものと証明してもらったもの 。
検認の主な目的は、遺言書の偽造・変造を防ぐことと、相続人に遺言書の存在と内容を知らせることです 。相続人が一人の場合、「相続人への告知」という目的の重要性は薄れますが、「偽造・変造の防止」という証拠保全の目的は依然として残ります。そのため、これらの遺言書については、相続人が一人であっても検認手続きが必要となるのです。
検認が不要となるケース
以下の種類の遺言書については、相続人が一人であるかどうかにかかわらず、検認は不要です。
- 公正証書遺言: 公証役場で公証人と証人の立会いのもと作成され、原本が公証役場に保管される遺言書 。
- 法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言: 故人が生前に法務局に預けた自筆証書遺言 。
これらの遺言書は、作成過程や保管状況から偽造・変造のリスクが低いと判断されるため、検認手続きを経ずに相続手続きに使用できます 。
2. 相続人が一人の場合の検認手続きのポイント
検認が必要な遺言書が見つかった場合、相続人が一人であっても、通常の検認手続きと同様の流れで進める必要があります。
- 申立て: 遺言書を保管していた、または発見した相続人が、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に検認の申立てを行います 。
- 必要書類: 申立書、遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人の戸籍謄本など、通常の検認申立てと同様の書類が必要です 。相続人が一人であることを証明するために、他の相続人がいないこと(または相続放棄したことなど)を示す戸籍謄本等も必要になる場合があります。
- 検認期日: 家庭裁判所から検認期日の通知があります。申立人である相続人は、指定された日時に遺言書原本を持参し、必ず出席しなければなりません 。他の相続人がいないため、期日の調整は比較的容易かもしれませんが、手続き自体は省略できません。
- 検認済証明書: 検認が無事に終わると、家庭裁判所に申請することで「検認済証明書」が遺言書原本に添付されて返却されます 。この検認済証明書付きの遺言書が、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約などの相続手続きに必要となります 。
3. 相続人が一人の場合のメリット・デメリット
相続人が一人の場合、相続手続き全体で見ると以下のようなメリット・デメリットが考えられます。
メリット
- 遺産分割協議が不要: 相続人が複数いる場合に必要となる遺産の分け方の話し合い(遺産分割協議)とその合意書(遺産分割協議書)の作成が不要なため、手続きがシンプルになります 。
- 相続トラブルのリスクが低い: 遺産の分け方を巡る相続人間の争いが発生しません 。
デメリット
- 相続税の負担増の可能性: 相続税の計算において、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、法定相続人の数に基づいて計算されます。相続人が一人の場合、これらの控除額・非課税枠が最小となり、結果的に相続税の負担が重くなる可能性があります 。
- 手続きの負担: 相続財産の調査、各種名義変更、相続税申告(必要な場合)など、すべての手続きを一人で行う必要があります 。
- (自筆証書遺言の場合)遺言の有効性リスク: 検認は遺言の有効性を判断するものではありません 。もし遺言書の形式に不備があったり、作成時の遺言能力に疑いがあったりした場合、せっかく検認を経ても遺言書が無効となり、手続きに使えないリスクは残ります 。
4. 遺言書がない場合の手続き
もし遺言書が見つからなかった場合、相続人が一人であれば、遺産分割協議は不要です 。相続財産の調査を行い、ご自身が唯一の相続人であることを証明する戸籍謄本等を揃えて、不動産や預貯金などの名義変更手続きを進めることになります 。
5. まとめ:相続人が一人でも遺言書の確認と適切な手続きを
相続人がお一人であっても、遺言書の種類によっては家庭裁判所での検認手続きが必要です。検認が必要な遺言書(自宅保管の自筆証書遺言や秘密証書遺言)を発見した場合は、勝手に開封せず、速やかに家庭裁判所に検認の申立てを行いましょう。
検認を怠ると、5万円以下の過料に処せられる可能性があるだけでなく 、検認済証明書がないために不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きを進められなくなるという実務上の大きな支障が生じます 。
相続人が一人だからといって手続きを軽視せず、まずは遺言書の有無を確認し、遺言書がある場合はその種類を特定して、必要な手続きを適切に進めることが重要です。手続きに不安がある場合や、相続税の申告が必要になる場合などは、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談することも有効な選択肢となります。
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